
モラ夫って、なんでモラハラするの?
悪いことをしているなんて、ぜんぜん思ってない。サイコパスかよ。

DVの加害者側の理屈を知りたいなら、加害男性と対峙してきた方の著書があるよ。モラ夫の理屈に共感はできないが、理解することはできる。
DVの理由

マンガ『闇金ウシジマくん』には、ウシジマくんが人の頭めがけて金属バットをフルスイングするシーンが描かれています。手加減を加えない人間味の無さに、アウトロー仲間も怯えます。
これって、相手の痛みを想像できないからですよね。つまり共感できない。
うちのモラ夫はウシジマくんの精神バージョンで、私や子供の心をめがけて躊躇なくバットをブン回していました。悪気なんて、ちょっぴりでも抱いてなかったです。
「価値観」説
なぜDV・虐待ができちゃうか? 私の疑問に答えたのは、DV加害男性向けの教育プログラムを実施する団体「アウェア」の代表者の著書でした(太字は私が強調。以下同じ)。
DVは、精神的な病気や性格や飲酒などが原因ではないので、アウェアの「加害者プログラム」は治療でもカウンセリングでもありません。DVを依存症や嗜癖行動とも見なしません。DVは考え方と価値観の問題ですから、加害者プログラムは教育と訓練です。
『愛を言い訳にする人たち――DV加害男性700人の告白』(山口 のり子 著)
価値観の問題であれば、悪いことをしている意識なんてありませんし、リミッターが作動することもないですよね。
また、さまざまなモラハラ本・毒親本・DV本で、DVの遠因として加害者が生まれ育った家庭環境や、社会的な背景が挙げられています。これらは人間一般の考え方や価値観に反映されますから、「価値観」説は私にとって納得のいくものでした。
「精神病」説
精神的な病気として「自己愛性パーソナリティ障害」がモラハラの原因、と言い切っている記事をネット上で散見しますが間違いです。『Q&Aモラル・ハラスメント』から引用します。
では、モラハラがやめられないのは病気か何かのせいでしょうか。
いえ、違います。(略)
もしもモラハラが病気によるものだとしたら、場所も相手もお構いなしに、「暴力」をふるっているはずです。
『Q&Aモラル・ハラスメント――弁護士とカウンセラーが答える見えないDVとの決別』(橋本 智子、谷本 惠美、矢田 りつ子、熊谷 早智子、水野 紀子 著)
医学的な見地から否定している本もあります。
精神状態についての基礎的な参考書である、『精神疾患の診断・統計マニュアル』(DSM)には、DV加害者にぴったり当てはまる症状は載っていません。
『DV・虐待加害者の実体を知る――あなた自身の人生を取り戻すためのガイド』(ランディ・バンクロフト 著)
では、なぜ精神的な病が原因と言われるようになったのでしょう。ひとつは、世界初のモラハラ本『モラル・ハラスメントーー人を傷つけずにはいられない』で、加害者のことを「自己愛的な変質者」「症状のない精神病者」と表現していることが一因かと思います。
精神分析医たちの間では、<自己愛的な変質者>――すなわちモラル・ハラスメントの加害者は<症状のない精神病者>だと考えられている。というのも、彼らは自分たちの苦しみや自分たちの内部にある矛盾を他人に背負わせて心の平衡を保とうとするが、彼ら自身は自分の苦しみを感じたことがないし、自分のなかにある矛盾にも気づこうとしない。だが、それでも苦しみや矛盾は存在するので、もしそれを放っておけば重大な精神病になる可能性がある。そこで、精神病の症状が現れる前に、そういったものを他人に押しつけてしまうのだ。<症状のない精神病>とはそういうことである。
『モラル・ハラスメント――人を傷つけずにはいられない』(マリー=フランス・イルゴイエンヌ 著)
要は、加害者は精神病にならないようにしている、と言っています(この本には、素人には解読しづらい表現が結構ある)。
別の書籍では、上の本の内容を引用して、次のように述べています。
モラ夫の理解しがたい言動に、なんらかの病名をつけてすっきりさせたいと思うのはもっともですが、病名というのは、本人が専門家に受診して初めてわかるものです。専門家の診断がない以上は、精神科医イルゴイエンヌが言っているように、「自己愛的な変質者」と考えるのが妥当と思われます。
『「モラル・ハラスメント」のすべて――夫の支配から逃れるための実践ガイド』(本田 りえ、露木 肇子、熊谷 早智子 著)
この説について、別途、考察記事を公開しています(以下)。よろしかったらご確認ください。
「アルコールのせい」説
アルコールのせいで暴力をふるう――こうした説を明確に否定している本があります。タイトルは『DVにさらされる子どもたち――加害者としての親が家族機能に及ぼす影響』。
「誤った加害者像」というセクションから、関連部分を引用します。ちなみに、いくつか挙げられている中で、これがトップです。
アルコール・薬物乱用
(略)アルコールおよび大部分の薬物には、暴力を引き起こす生理的作用はなく、アルコールがもっとも暴力につながりやすいのは、本人がそう思い込んでいる場合である。激しい身体的暴力をふるう者を含め、大部分の加害者にはアルコール・薬物乱用の徴候はまったくみられない。
なお「DVの原因とはいえないが、暴力の頻度や激しさに影響を及ぼすことはある」とは、書かれています。パートナーという立場では、相手の飲酒に注意することは重要です。
番外編(良心をもたないから)
この記事で取り上げたのは、DV夫・モラハラ夫を分析・調査した本だ。だが私はサイコパスについて解説した本に、我がモラ夫との共通性を見たので、ここで紹介する。
その本のタイトルは『良心をもたない人たち』。良心をもたないために、反道徳的な振る舞いであっても罪悪感を抱かない。この自分で歯止めをかけるメカニズムを欠いた人こそ、サイコパスである。この本では、派手な事件を巻き起こすような犯罪者ではなく、身近にいるサイコパスを扱っている。いわゆるモラハラ夫も一例として登場。
では、そもそも良心をもたない人がどうして作り出されるのか? この点については、本の中で以下のように解説が始まり、追って詳述している。
人間の多くの肉体的・心理的特徴とおなじように、まず問われるのは、生まれか育ちかという問題だ。特徴は血の中にそなわっているのか、それとも環境によってつくりだされるのか。答えは、おそらく両方ということになるだろう。言い換えると、特徴への芽生えは受胎のときから存在するが、環境しだいで表われ方がちがってくる。これは好ましい特徴の場合にも、好ましくない特徴の場合にも言える。
良心をもたなければ、価値観も普通の人とは異なってくる。「DV 価値観説」とも矛盾しないので、私は納得がいった。
もしモラハラ夫・DV夫が罪悪感を抱かずに無邪気に攻撃している気配を感じるなら、ぜひご一読を。なお、この本のレビュー記事もよろしかったらご覧ください。
おすすめの1冊
DVの加害者のことを知りたいのであれば、『愛を言い訳にする人たち――DV加害男性700人の告白』が最適です。この記事で取り上げた「なぜモラハラをするのか?」という疑問の他にも、「DV夫を変えられるのか?」「どんな人がDVをするのか?」など、加害者がらみの数々の疑問に答えてくれます。
ただ加害者の言葉で生々しいエピソードが語られているので、気分が悪くなる方は注意が必要です。
よろしかったら、この本のレビューもご覧ください。
まとめ
加害者の価値観に応じてDV・モラハラをはたらく
- おすすめの本
- その他の本
- 闇金ウシジマくん
- Q&Aモラル・ハラスメント――弁護士とカウンセラーが答える見えないDVとの決別
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