
「モラハラ夫やDV夫は自己愛性パーソナリティ障害だ」という説と、「モラハラやDVの原因は病気ではない」という説の両方をネットで見る。
どっちが正解?

DV加害者が共通して何かの病気ってことはない。
ただ、いろいろと誤解が生じる素地はあるように感じている。
はじめに
モラハラやDVをはたらくのは、加害者の「自己愛性パーソナリティ障害」(あるいは「境界性パーソナリティ障害」)といった心の病のせい、という言説を目にします。反対に、モラハラやDVの原因は病気ではない、という説も。どちらが正しいのでしょうか?
私が本を読み漁って得た情報から判断する限り、厳密に言うと「DV・モラハラ・虐待の加害者 = 自己愛性パーソナリティ障害の人」と、等号で結べるわけではありません。この記事では、こうした誤解がどのように生まれたのかを、読書好きの私が考察します。専門家ではないので、ご参考までに。
私が考える実態
DVを行う人たちの大きな集合があって、その中に自己愛性パーソナリティ障害と診断された人々が少数含まれる――実態はこのような感じではないかと、私は考えています。
自己愛性パーソナリティ障害の方の中には、一人暮らしだったり、家族と疎遠だったりして、DVを行う環境にない人もいるかもしれません。
概念図を用意しました。

DV・モラハラの加害者は、世の中に星の数ほどいます。家庭内での被害経験をまとめた『男女間における暴力に関する調査報告書(平成29年度調査)』(内閣府 男女共同参画局、レビュー)によれば、夫からの被害経験ありと答えた女性の割合は、身体的暴行は19.8%、心理的攻撃は16.8%。妻からの被害経験ありと答えた男性は、身体的暴行で14.5%、心理的攻撃で10.0%です。なお、以下の記事で統計データをグラフ付きで紹介しています。よろしかったら、ご確認ください。
一方で、「自己愛性パーソナリティ障害」の人の割合はもっと少ないです。本によって挙げている数値に多少バラつきがありますが、2冊から引用します。
自己愛が著しく肥大すると、米国精神医学会の診断基準である「DSM」に基づいて、専門家が「自己愛性パーソナリティ障害」という診断を下すことがあります。ただし、そのように診断される人はまれで、100人にひとり程度だといいます。
『結局、自分のことしか考えない人たち――自己愛人間への対応術』「文庫版訳者あとがき」(レビュー)
有病率
アメリカの研究によると複数の地域での調査の結果だが、0~6.2%という報告がある
『パーソナリティ障害――正しい知識と治し方(健康ライブラリーイラスト版)』(レビュー)
有病率とは、ある時点・ある集団で罹患している人の割合です。
そもそも「自己愛性パーソナリティ障害」だと認定されるには、専門家の診断を受ける必要があります。自分がおかしいと思っていないDV夫やDV妻なら、その窓口を訪れることさえないはず。
では、DV夫やDV妻が精神科医にかかりさえすれば、高い確率で「自己愛性パーソナリティ障害」と診断されるのでしょうか? これも、そう簡単ではない模様。『自己愛性パーソナリティ障害のことがよく分かる本』から関連の記述をピックアップします。
- 最初から診断されることはほとんどない
- (境界性など他のパーソナリティ障害と)はっきり線引きできるものではない
なお、『DVにさらされる子どもたち――加害者としての親が家族機能に及ぼす影響』(レビュー)では「誤った加害者像」というセクションで、「DV夫 病気説」を明確に否定しています。以下、引用。
精神疾患・精神的問題
加害者のなかには、精神疾患が見受けられる者はほとんどいない。参照できる研究結果によれば、きわめて攻撃性の高い者を除き、加害者が精神病理学的な問題をもっている割合は、暴力をふるわない男性と比べて著しく高いとはいえない。加害者を精神病理学的な類型にあてはめることは困難であり、加害者に共通してみられる特定の人格障害や精神疾患も存在しない。ゲルズとストラウスは、「(虐待事件の)90%は、心理学的に説明することはできない」と述べている。とくに家庭以外では暴力をふるわない加害者については、精神病理学的兆候がみられないことを示す強力な証拠がある。
ちなみに、パーソナリティ障害の診断基準は『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(米国精神医学会 編、日本精神神経学会 日本語版監修)にて規定されています。『良心をもたない人たちへの対処法』(レビュー)では、『DSM』を「精神障害の診断基準を示すバイブルと呼ばれる」と説明。実際に、医療現場で広く用いられていますし、色々な本で『DSM』への言及が見られます。
自己愛性パーソナリティ障害の場合は「特権意識」「共感の欠如」など9つある兆候のうち5つ以上当てはまれば、そう診断されます。
なお、前版の『DSM-4』では「人格障害」という名称を用いていましたが、『DSM-5』では「パーソナリティ障害」に改名。その理由について、『自己愛性パーソナリティ障害のことがよく分かる本』では「(人格障害だと)単なる障害ではなく、その人自身まで否定されるようなニュアンスになるため」と説明しています。
この記事のタイトル「DV夫やモラハラ夫は病気?」に立ち返ります。まずは引用から。
パーソナリティ障害は「病気」としてとらえられるものではありませんが、本人の苦痛や心の病、あるいは社会的な問題をもたらしやすい精神状態といえます。
『自己愛性パーソナリティ障害のことがよく分かる本』
つまるところ、DVを行う男性であっても女性であっても、病気だから、というわけではありません。「病的におかしい」という意味合いで、カジュアルな会話の中で「あいつは病気」などと言うことがあっても。
なぜ誤解が生じるか?
以下の2つの理由から、「DV・モラハラ・虐待の加害者 = 自己愛性パーソナリティ障害の人」との誤解を招くことがあるのでは、と推測しています。
- DV(モラハラを含む)の加害者を「自己愛的な変質者」「自己愛人間」などと称している本がある。これを「自己愛性パーソナリティ障害の人」と捉えてしまう
- 「自己愛性パーソナリティ障害のためにDVを行う」の逆「DVを行うのは、自己愛性パーソナリティ障害だから」も真実だと捉えてしまう
順に詳述します。
ひとつ目。「モラハラ」という用語が広まるきっかけを作った、もっとも有名なモラハラ本『モラル・ハラスメント――人を傷つけずにはいられない』(レビュー)では加害者を「自己愛的な変質者」と表現しています。また別の本『結局、自分のことしか考えない人たち――自己愛人間への対応術』(レビュー)では、サブタイトルにも入っている「自己愛人間」という呼び名を全編を通じて連呼。そのほかにもモラハラ本やDV本では「自己愛」というキーワードが頻出します。
「DV・モラハラ・虐待の加害者 = 自己愛性パーソナリティ障害」説が生まれたのは、この「自己愛」という単語に引きずられたのが理由の一端ではないかと。
ふたつ目。たとえば、風邪を引いたら咳や鼻水が出るでしょう。しかし、咳や鼻水が出たからといって、風邪とは言い切れません。このように必要条件と十分条件を混同した「DV・モラハラ・虐待の加害者 = 自己愛性パーソナリティ障害の人」説を、たまに見かけます。これが誤解を生じたもうひとつの理由ではないでしょうか。
DV・モラハラ・虐待の加害者には、自己愛性パーソナリティ障害などが隠れている場合がある(たまに)――くらいのものではないか、と思います。
病気じゃないなら、なんだってあんなことやこんなことをするのか、にご興味がありましたら、ぜひ以下の記事もご確認ください。
役に立った本
私には、かつてモラハラ夫がいました(離婚済み)。ヤツは自分がおかしいなんて露ほども思っておらず、専門家の診断を受ける機会はありませんでした。仮に受診したとしても、パーソナリティ障害の診断が下されたかどうか……?
そんな我がモラ夫について、一番言い当てていると思った本は『良心をもたない人たち』(レビュー)です。原題は「The Sociopath Next Door(となりのソシオパス)」。反社会性パーソナリティ障害気質の人を「サイコパス」「ソシオパス」と称して解説しています。
また続編の『良心をもたない人たちへの対処法』(レビュー)では、自己愛性パーソナリティ障害気質の人「ナルシシスト」も扱っています。
いずれも真正のパーソナリティ障害の人だけを取り上げているのではなく、それっぽい人を対象にしています。
上の2冊からは、たくさんの実際的な情報を得られました。この点では、モラ夫持ちの私にとっては大いに役立つ本でした。モノホンのパーソナリティ障害ではなかったとしても、その傾向はある。したがって対策は有効でした。
しかし、人生の役に立った本としては、別の1冊を挙げます。私のモラハラ本のバイブル『カウンセラーが語るモラルハラスメント――人生を自分の手に取りもどすためにできること』(レビュー)です。この本では、モラ夫のことは気にせず、深掘りせず、自分がしたいことをやり、自分の人生を生きるように説いています。私がやっていること(モラハラ夫についての記事を書く)に反するとお思いかもしれませんが、私はこのコンセプトに救われました。モラハラやDVに悩む方がいらっしゃいましたら、ぜひご一読ください。
まとめ
- 男女間における暴力に関する調査報告書(平成29年度調査)
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- DVにさらされる子どもたち――加害者としての親が家族機能に及ぼす影響
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- モラル・ハラスメント――人を傷つけずにはいられない
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