本『DVはなおる 続――被害・加害当事者が語る「傷つけない支援」』のレビュー

うーん

★★☆☆☆

 著者が主宰する支援団体の支援内容や利用者の体験談を掲載。

 本の中で「DVがなおる」ことについての言及はない。「DVはなおる」をキャッチフレーズにした営業パンフレットのよう。

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レビュー

 この本は、筆頭の著者が主宰する「日本家族再生センター」という支援団体(有限会社)を紹介するものです。以下の3章で構成されています。

  1. DV・家族問題――日本家族再生センターの支援とは
  2. 「回復」と「再生」の物語――被害・加害当事者より
  3. 当事者にやさしくない女性支援――メンズカウンセリング講座の語りから

 第1章では同団体のユニークな支援内容を紹介し、続く第2章では利用者の体験談(18件)を掲載。この2章のボリュームがもっとも大きいです。第3章では著者と当事者4名が行政の女性支援の問題点などを語った様子が、対話形式でまとめられています。体験談からは、この団体の支援活動によって、実際に救われた方、人生が好転し始めた方がいることが分かります。

 しかし、本の評価としては、ビミョーです。まずもって、タイトルがよろしくないと思います。

 DVについて、病気のように「なおる」という言い方をすることは適切でない。治療できるものではない――このような言説は、私のような素人でも再三再四、目にし耳にします。

 共著者を含めて支援業界にいる方々が誰もその議論を知らないとしたら、そもそもDVで悩んでいる人々に真摯に向き合っているのか疑問が湧いてきます。あるいは知りつつもあえて「なおる」という表現をタイトルに選んだのだとしたら、なんらかの断り書きなり、「いやDVは実際になおるんだ」という主張なりが、本作中にあってしかるべきだと思います(見つけられず……)。

私

 DV=家庭内暴力ですが、「暴力がなおる」という言い方は、そもそも日本語として違和感を感じます虐待いじめは「なおる」とは言いませんよね?

 百歩譲って「DV男はなおる」「DV女はなおる」のように、人を主語にした言い方ならアリだと思います。「ヤツはもうなおらん」とか「(風邪をひいていた)○○さんは治った」のような口語表現は耳にしますし、自分でも言っているかも。

 DVモラハラのように横文字になると、この本に限らず「なおる」という表記を見かけます(特にネットで)。これらの用語のおかげで残虐性のイメージが和らいで、被害に気付く人の裾野が広がる効果があったとは思います。しかし一方で、本来の意味があいまいになったのかもしれません。 

 また当事者が「DVはなおるか?」と悩むとしたら、それまでの生活からDVだけが無くなり、家族構成はそのまま平穏に暮らせるようになるか、という文脈が真っ先に思い浮かびます。この意味で「DVがなおる」ことを期待してこの本を読んでも、「DVをなおす」方法は載っていません。

 もとより、この本の中身で「DVはなおる」という表記がなされている箇所はわずかです。なぜか感嘆符・疑問符付きで「DVはなおる!?」というセクションはありますが……。

 著者の見解を述べている部分では、似て非なる「脱暴力」「変化」という表現が使われています。

 巷の言説では、「DV加害者は変わらない」、加害者は人格的に問題があり、教育やプログラムで変化するものではないと言われています。が、その根拠はあいまいです。日本家族再生センターでは多くのいわゆる加害者は脱暴力への変化を見せていますから、「支援がなければ加害者は変わらない」ということかもしれません。

(15ページ)

 あとは体験談のパートで、いくつか「なおる」系の表現はありました。

 (略)「DV男の回復はあるの?」と元被害女性に聞いたところ、アッサリと「なおった男、見たことないわ」という言葉が返ってきました。

(149ページ)

 そんな中、80%の方がなおると言われているDVの更生プログラムがありました。彼は、自分はなおして離婚したくないということでしたので、私は更生プログラムに通うことをその条件にしました。

(153ページ)

 ただ、これは「DVがなおる」と言う用法ではなく、「DV男がなおる」というように人を主語にした表現です。

私

タイトルの話しかしてない!

 本の内容に触れると、私にとっては引っかかる記述がちょこちょことありました。ギョッとするレベルで衝撃的だったのは、体験談の中の以下の部分です。

 (略)グループワークの内容はすごく納得のできるものでした。参加者それぞれの思いが尊重された場で、DV加害者プログラムでは激しく糾弾されるような加害エピソード(「パートナーを殴ってしまった)」など)を語ったとしても「そうしたかった気持ちはわかる。しんどかったね」という言葉でもってまずは共感をもらえました。もちろん、その後には「(加害行為をせずに)他の行動をしても良かったよね。気持ちの伝え方は他にもたくさんあるので、それを学んでいってほしい」という話があり、実際のグループワークでも、そういった心地よいコミュニケーションを学べます。

(211ページ)

 殴った相手が子供でも「そうしたかった気持ちはわかる。しんどかったね」と、共感を得られるのでしょうか? 会社の同僚、通行人など、他の女性でも? 男性相手でも? あるいは妻だけは殴りたくなる気持ちが肯定されるのでしょうか?

 ある本で、別の加害者向けプログラムのファシリテーター(司会)が「暴力は否定するが、人格は尊重する」と述べていました。私にはこの考えのほうがしっくりきます。何をやったとしても否定されないとしたら、勘違いした「叱らない育児」のようだと思いました。

私

 グループワークに継続して参加して「心地よいコミュニケーション」が学べた人はいいですが、参加を強制はできないですよね。

 うちのモラ夫だったら、1回だけ参加して「『殴りたかった気持ちはわかる』『しんどかったね』と言われた」と、免罪符として悪用しそう。こわっっっ。

 ただ否定されずに話を聞いてもらえれば、顧客満足度は上がると思います。こういう点からも、なんだか営業臭を感じてしまいました。

 この本について、「DVはなおる」というキャッチーなタイトルを筆頭に、誤認を誘うような営業用パンフレットという印象を受けました。良いことも書かれているのかもしれませんが、話半分にしか受け止められませんでした。支援活動を経営的にも成功させることは素晴らしいことだし、支援される側にとっても継続的に高品質のサービスを受けられることはメリットになると思います。しかし、なんとも残念な本でした。

 なお、このサイトではDV加害者について扱った他の本のレビューも行っています。よろしかったら、以下の記事をご確認ください。

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まとめ

要約

著者が主宰する「日本家族再生センター」という支援団体の支援活動や、利用者の体験談を紹介。

評価(お役立ち度)

★★☆☆☆ (支援団体の営業用パンフ、との印象がぬぐえない)

基本情報
  • タイトル:DVはなおる 続――被害・加害当事者が語る「傷つけない支援」
  • 著者:味沢 道明、中村 カズノリ、当事者
  • 出版社:ジャパンマシニスト社
  • 発行日:2018年9月18日
  • ISBN-10:4880493317
  • ISBN-13:978-4880493312

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 ある日、私は2人の子供を連れて、モラ夫から逃げて別居しました。私自身と子供を守るためです。

 私は年間100冊程度の本を読んでいます。好きなジャンルはファンタジーですが、多読しているのは実用書です。

 このサイトを訪れた方が、少しでも生活を改善したり、気持ちを前向きにしたりする情報を得られたら幸いです。

望木 幸恵

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