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モラハラ離婚を含め、多数の離婚案件を扱ってきた女性弁護士が執筆。離婚調停では「社会的に正しい」主張こそ正義!
レビュー
離婚調停での調停委員への話の仕方にフォーカスを合わせたのが、この本です。離婚調停・離婚裁判を取り扱った本は多数ありますが、話す方法に関する説明の詳しさでは随一です。と言いますか、「話し方」について深く掘り下げた本は、他には巡りあっていません。
この本は、小手先のテクニックに終始するのではなく、ベースとなる「考え方」を紹介した後に、「話し方」を具体的に示しています。特に離婚調停の1回目は「どう話そう」「何を着て行こう」と、細々としたことが気になりますが、話し方への回答が載っています。
ちなみに、離婚調停では夫婦が直接顔を合わせることはなく、それぞれが交代で調停委員(通常男女1名ずつ)に自分の主張を訴えます。1回の調停で「妻→夫→妻→夫」または「夫→妻→夫→妻」の順で、30分ずつ2回、発言の機会が巡ってきます。弁護士同伴の場合は当事者である自分と、代理人である弁護士の双方が協力して主張や説明を行います。

私の依頼した弁護士によると、どちらがどれだけ発言するかは、人によるそうです。私は9割がたは自分で話しています。
私にとって調停で一番役に立ったのは「考え方」の章です。少々引用します(太字・改行は原文ママ、以下同じ)。
裁判所という場所自体が、「正義」「公平」を重んじる場所なのです。
その場所で、職員として活動する調停委員は、その価値観で行動しなければならないのです。
「正義」「公平」を意識して、問題解決をめざそうとすれば、
「どうしたら、社会的に正しいと受け入れられるか」
を考え続けることになります。
相談した第三者が夫婦それぞれの主張の真ん中で事を収めようとする。こういったことはありがちで、私も経験しています。喧嘩両成敗は公平に見えますが、片方が常識外れの過激な主張をしていたらおかしなことになります。たとえば金塊が4個あって、「4個ぜんぶ欲しい」というA君と、「半々の2個ずつにしよう」というBちゃんが対立しているとします。間の意見を取ったらA君3個、Bちゃん1個になります。これは「正義」「公平」じゃないですよね。A君の言い分は却下して、Bちゃんの意見を100%取り入れるのが、「正義」「公平」ですよね。
モラ夫が関わると話がうまくいかないことは何度も経験して重々承知していたのですが、どうすればいいのかがさっぱり分からず……。この本を読んだときに「社会的に正しい」という基準を知り、目の前の霧が晴れました。だいぶ後になって、実際に離婚調停で「モラ夫側に寄せたら、社会一般の常識から外れる」という主旨で主張しています。
なお、「話し方」は一般に言われていることと同様でした。ちまたの離婚体験ブログで、調停での主張を仕事のプレゼンになぞらえている方がいますが(男性に多い)、私も目的が異なるだけで話法は同じだと思います。ただ、この本では離婚調停に特化して具体的に述べているので、調停の現場で応用しやすいです。
弁護士を依頼せずに調停に臨む方はもとより、弁護士同伴で調停に参加する方へもお勧めします。Kindle Unlimited(電子書籍の読み放題サービス)の対象に含まれるので(記事投稿時点で)、契約されている方はぜひお手に取ってください。
著者について
著者の法律事務所のWebサイト(以下)には、離婚調停・離婚裁判に関する情報が山ほどあります。モラハラ離婚に特化した記述もたっぷりあります。
本やWebサイトから、著者の情熱を感じます。この本の「はじめに」を読むと、その理由の一端が分かります。
私が幼稚園児のころ、私の父と母はよく喧嘩をしていました。
「離婚」の言葉も、母の口から何度も出ていました。
父と母の前に立ちはだかって、「やめて」と泣きながら、母をかばっていた私。
腕力では、男性にかなわないという実感、恐怖。
自分の体験を通じて「表現力」「説得力」を磨き、男性と同じように戦える弁護士の職を選ばれました。
「相手は口がうまい」「一人では到底、相手にかなわない」と思っている方たちに
私の「言葉の力」を使って、助けたい
私の「言葉の力」で、勇気づけてあげたい
その思いで、これまで弁護士をしてきました。


本やWebサイトを通じて間接的にですが、私は助けられました。ありがとうございます。
残念な点
この本は通常の書籍の形では発行されておらず、Kindle版(Amazonの電子書籍)しかありません。ISBNが割り振られていないので、セルフ出版サービス「KDP(Kindleダイレクト・パブリッシング)」をご利用になったようです。
全編を通じて、やたらと改行や空行が入っています。ひとつの文の途中にある改行や、1文2文刻みの空行のおかげで間延びした印象を受け、集中を削がれるのが残念です。ネタが「調停での話し方」1つだけなので、ページ数を稼ぐためか、Webコンテンツをそのまま流用したか……。プロの編集者の手を経ていたら、こんなことはないはずです。
法律事務所のWebサイトにある豊富なコンテンツを元に、網羅的に離婚調停を扱った書籍を発行してほしいです。私は買います。
まとめ
離婚調停での調停委員への話の仕方に絞って解説。ボリュームは非常に少なく、すぐに読み終わる。「どうしたら、社会的に正しいと受け入れられるか」
★★★★★ (離婚調停で助かりました)
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