★★★★☆
著者が公的DVシェルターに入所した際の体験談。入所に至った経緯や、退所後の生活にも言及。
シェルター入所時期は10年以上前。情報が古い点が残念。
レビュー
この本は著者が公的DVシェルター(自治体が運営するシェルター)に入所した際の体験談です。著者は単身で東京にあるシェルターを利用しました。
シェルター滞在中の話だけでなく、入所に至った経緯(夫からの凄惨な身体的DVや経済的DV)と、退所後の生活(ドラマチックな展開)にも言及。さらに同時期にシェルターで過ごした「女たち」、つまり利用者と職員に関しても、著者が観察したりコミュニケーションをとったりした内容を記しています。
この本の位置づけについて、著者は次のように述べています。
シェルターの内部の生活や入所者の様子、シェルターへの入り方、そして出所後の生活のこともほとんど公になっていない。シェルターは謎に満ちているのだ。
本書は私の経験を通じて、そんなDVシェルターの実態を明らかにするとともに、DVという犯罪の怖さとそこから立ち直ることの難しさを訴えようとするものである。
同様の立場の方にとっては、DVから脱するのに参考になる情報が得られます。たとえば著者はDV夫から緊急で逃げ出す事態を想定して、持ち出すものをまとめた「非常用バッグ」を用意しています。また相談相手としてふさわしくない立場の人も分かります。
ただ本に描かれているDVシェルターの状況は過去のものです。著者がシェルターを利用したのはだいぶ前、少なくとも2007年以前です。この本が出版されたのは2016年9月。本の中に、シェルター入所の前後に始めた離婚裁判(調停?)が成立までに7年要したことや、その後に出会った方と最低でも2年以上の期間を経て再婚したことが記されています。
私も公的シェルターの利用経験者ですが、人権・プライバシー・健康や、シェルター後の生活に、より配慮した運営でした(体験談)。本の記述と、私の経験を対比します。
本の記述 | 私の経験 |
---|---|
「これから山下さんのことは、17番と呼びます(略)」 | 下の名前で呼ばれた |
職員が音頭をとって唱和させられる。「東京都のみなさん、今日も温かいベッドと食事をありがとうございます。みなさんの税金のおかげです」 | そんなことは一度もなかった |
風呂に入るときは、当たり前だが裸になる。そうすると他の入所者の身体のあざや傷が嫌でも目に入ってきた | 個人または家族単位で、時間を区切って入浴 |
タバコを吸わない人もテレビを観るために喫煙室にやってきた | 禁煙だった。テレビは部屋に備え付け |
彼女たちは近隣の婦人会からきたボランティアで、クリスマスの飾り付けのためにシェルターに来たという | 外部のボランティアが来ることは無かった |
シェルターを出てどうするのか、今後の身の振り方について、私は一度も相談に乗ってもらえなかった | 身の振り方が決まったら退所。相談相手もいる |
また「でっちあげDV」による入所者も描かれていますが、今はシェルター関係者相手に演技を成功させるのは難しいのでは、と思います。
いずれにせよ私がお世話になった際にDVシェルターの対応が改善されていたのは、著者のように声をあげた先人たちのおかげです。感謝しています。
とはいえ、私がシェルターに入所したのはコロナ前。今はまた状況が違っているかもしれません。
なお本のストーリーは時系列で展開するので、分かりやすいです。DVやモラハラのブログなど、体験談を参考にしている方におすすめです。
まとめ
著者が公的DVシェルターに入所した際の体験談。入所に至った経緯や、退所後の生活にも言及
★★★★☆ (情報がちょっと古い?)
コメント