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「有害な男らしさ」を学び落とすことができる本。
息子をDV夫・モラハラ夫にしたくない方の必読の書。
レビュー
本のあらすじ・位置づけ・著者について
「有害な男らしさ」を学び落とすことができる本です。本の中で「有害な男らしさ」について以下の説明があります。
「有害な男らしさ」とは
(略)これは、1980年代にアメリカの心理学者が提唱した言葉です(英語ではToxic Masculinity)。社会の中で「男らしさ」として当然視、賞賛され、男性が無自覚のうちにそうなるように仕向けられる特性の中に、暴力や性差別的な言動につながったり、自分自身を大切にできなくさせたりする有害(toxic)な性質が埋め込まれている、という指摘を表現しています。
この本は著者の自己紹介で始まります。関連の記述を「はじめに」から抜粋します。
- 神奈川県で弁護士をしています。
- いまは離婚事件の扱いがいちばん多いです。(略)依頼者の7~8割が女性となっています。
- セクシャルハラスメントや性暴力被害に遭った方の代理人弁護士の仕事も、他の弁護士と比べると多いと思います。
- 私生活では、小学6年生と3年生の2人の息子を育てる母親でもあります。
この本を著した背景について、著者は次のように述べています。
これまで弁護士としてかかわってきたDV離婚事案やハラスメント事案での男性の言動や、報道される性暴力事件の加害者の行動を見ると、自分の行動を反省するどころか、開き直って被害者を非難するような態度を見ることがあまりに多いと感じます。
(略)中年や初老になってそのようなふるまいを改められない男性に、根本的な考え方を変えさせることはもはや難しいのではないか、と感じざるをえません。(略)
むしろ、彼らを反面教師として、これから成人する男の子たちがそうならないためには、どういうことに気をつけて子育てする必要があるのかを、まさに男の子を育てる私自身が緊急に考えなくてはいけないのではないか――。そんなふうに考えるようになりました。
タイトルのとおり、成長途上の男の子へのメッセージが本に詰まっています。ただし、子供向けの本ではありません。表紙の絵くらいの年齢の子供が一人で読むには難解です。高校生くらいだったら、読んで理解できるかもしれません。
かといって、親向けの子育ての指南書の類でもなく。息子にどのような声かけ・態度で臨んだらいいのか、たちどころに分かるわけではありません。
この本の素晴らしいところは、社会で認識されていなかった「有害な男らしさ」について気付きを与え、考えるネタをたっぷり提示している点です。高い意識と言語化スキルを持つ著者の葛藤や実体験を通じて、学ぶことが多々ありました。
目次は以下のとおり。
- はじめに
- 第1章 男の子の日常にかかるジェンダーバイアスの膜
- 第2章 音の子にかけられる呪い
- 清田隆之さんに聞く 男子って、どうしてああなんでしょうか?
- 第3章 セックスする前に男子に知っておいてほしいこと
- 星野俊樹さんに聞く 多様性が尊重される教室をつくるには?
- 第4章 セクハラ・性暴力について男子にどう教える?
- 第5章 カンチガイを生む表現を考える
- 小島慶子さんに聞く 母親として、息子・娘たちに何を伝えられますか?
- 第6章 これからの男の子たちへ
- あとがき
感想等
私はモラハラ離婚の当事者として、また一男一女の母として、息子がモラ夫(元)の悪いところに似るのは、何としても避けたいです。ネット上のブログやコメントでも、同様の立場の方が同じような思いを吐露しているのを見かけます(そのたびに勝手に「同志よ!」と思っています)。
まあ、一方でモラ夫(元)はもう変わらないだろう、変わろうが変わるまいが私には関係ない、と考えていますが。
そんな私にとって、この本は子育てを振り返るきっかけになりました。たとえば、自分が子供の頃に嫌な思いをしたので、「男の子なんだから」「女の子なんだから」といった声かけを私は我が子にはしていないです(たぶん)。でも、この本の著者はもっと積極的に、マンガやテレビ、動画などで気になる表現を息子さん達に指摘しているようです。
親が心の中で思っているだけでは親の価値観は伝わらない。子供が楽しんでいるコンテンツの影響力は大きい。やっぱり言わないとな――私はこのようにはっきりと認識するに至りました。
ただし、子供に伝えづらいことも。たとえば「AVはファンタジー」なら言えても、微に入り細を穿つような具体策は言えない……。ここにも書きにくいのですが、本から引用します。
また、「女性器に指を入れ、液体を分泌させる行為」(いわゆる「潮吹き」)については、登壇者全員が「まねをしてはいけない」と強調。膣内が傷つくこともあり、作品中で描かれるほど女性が快感を得る場合ばかりでもないことから、「AVで見るだけにして」と訴えたとのことです。
ここで「登壇者」と言っているのは、中央大学の2018年の大学祭で催された「AVの教科書化に物申す!」というイベントに登場したAV俳優3名、AVメーカー社長、産婦人科医です。
我が息子(保育園児)が年頃になる前に、男の子向けの性教育の本が出ているといいな、と思いました(生理の話とからめて、女子向けの性教育の本はある。しかし男子向けは見当たらず)。
またフェミっぽい響きがあり誤解していましたが、「有害な男らしさ」を手放すことは、女性にとってだけでなく、男性にとっても、生きやすさに通じることだと分かりました。傍から見て人生に成功しているように見えても、あるいは普通の生活を送っているように見えても、幸せかどうかとは別問題。手近な例で、我がモラ夫(元)の場合、家族に特権を振るってその場その場で得はしていましたが、心は満たされず。
私は息子のために、彼の成長に合わせて、この本を今後も読み込んでいくつもりです。息子が長じてお相手の女性に辛い思いをさせるのもイヤだが、息子が生きづらさを抱えながら人生を送るのも避けたい。
息子さんをお持ちの親御さんは、よろしかったら本を開いてください。
まとめ
「有害な男らしさ」について紹介し、これからの男の子たちに伝えたいことをまとめた本
★★★★★ (育児の前に、自分の価値観・認識を見直すきっかけになった)
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