本『スポーツ毒親――暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』のレビュー

おすすめポイント

★★★★★

子供向けスポーツの世界における、指導者・保護者と子供との不健全な関わりについて扱う。環境によってスポーツ毒親になってしまったケースと、元から毒親であるケースの双方を取り上げる

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レビュー

本のあらすじ・位置づけ

 この本は、スポーツをテーマにした教育虐待を扱っています(本の中で「教育虐待」という単語は出てこない)。自らもスポーツ毒親であったと認めるスポーツライター(1男1女の母)が、親や指導者、関連する事件の関係者などを丹念に取材、1冊の本にまとめました。

 章立ては次のとおり(章のタイトルにいろいろと付記されていて、内容が分かりやすい)。

  • 第1章 子どもに土下座させる監督に服従し続けた親たち
    ――スポーツ毒親は狂喜する「全国大会は蜜の味」
    ~ 全国上位の少年バレーボールクラブ
  • 第2章 口止め誓約書を書かせた親たち
    ――スポーツ毒親は判断力を失う「個人より組織」
    ~ 大分少女バレーボール暴力事件
  • 第3章 性虐待に鈍感な親たち
    ――スポーツ毒親はスルーする「強い主従関係の危険度」
    ~ 高校女子バスケットボール部セクハラ事件
  • 第4章 不正に手を染める高校生ゴルファー
    ――スポーツ毒親は待てない「早期教育のリスク」
    ~ 親に抑圧される子どもたちの辛苦
  • 第5章 少年球児をうつ状態にした父
    ――スポーツ毒親は子を追い込む「発奮させる恐怖学習」
    ~ 大阪府「お父さんコーチ」の懺悔
  • 第6章 少年野球当番問題
    ――スポーツ毒親のブラック掟「日本の負の縮図」
    ~ 来られない親に嫌がらせをする母親たち
  • 第7章 毒を制した親たち
    ――スポーツ毒親にならないために
    ~ 暴力指導と向き合った全国柔道事故被害者の会

 ご覧のとおり団体競技を多めに取り上げています。

 第1~3章で登場するのは、指導者の毒にあてられるなど、条件が重なってスポーツ毒親になってしまった方々。たとえば全国大会出場などの成果の陰で、指導者が自身の指導者としての名声などのために子供を不適切に監督・指導し、保護者達も図らずもそれに追随しています。

 第4~6章で扱っているのは、親自身が子供を苦しめる主たる根源となっているケース。要因として「親自身の自己肯定感の低さ」が挙げられています。スポーツ毒親っていうか、ただの毒親じゃないかと。このWebサイトでは、そうした親への対処を考えているので、一例を引用します。

 数年前にメールをくれた女性は、サッカー少年である息子への夫の過干渉について相談してきた。強引に息子の所属サッカーチームを変えてしまう。行った先で試合に出られないと「出られないならサッカーをやめろ」と迫る。プロを目指さないならやる意味がないと息子をなじるという。実は「出られないならやめろ」とか「今日ゴールできなかったらもうやめろ」と子どもを抑圧する親は少なくない。

(略)

 話をして、息子はプロになれるようなレベルではないことがわかった。単に「プロ」という目標を掲げることで努力させようとしているように見えた。活躍する「○○君のお父さん」として、自身の自己承認欲求を高めたい。もしくは自分の人生で成し遂げられなかったことを子どもに託す「敗者復活戦」のようにも映った。母親にそのことを告げると「私もそう思う」と同じ見解だった。

 最後の第7章では、柔道界での改善の動きを追っています。

感想等

 この本では、スポーツ毒親だけでなく、子供のスポーツ界の暗部に広く焦点を合わせています。本の副題「暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか」からも、親以外の悪いヤツがいることを見て取れます。

「暴力・性虐待にわが子を差し出す」ことになると思い設けつつ、子供にスポーツを始めさせる親はいないでしょう(この副題はちょっとセンセーショナリズムの匂いがします)。ただし結果的に、毒指導者による毒々しい言動を、普通の親が看過・容認・助長してしまうことがある。――そうした事実と経緯が、この本のおかげでよく分かりました。これを読めば、たくさんのスポーツ毒親が自分で解毒できたり、そもそも普通の親がスポーツ毒親になることを避けられるはず

 なお根っからの毒親がスポーツ毒親の顔も持っているケースについては、スポーツが絡む範囲の記述に留まります。

 私はこのサイトで主に家庭内の問題を扱ってきましたが、スポーツ界ならではの問題解決の難しさもあるんだなあと思いました。毒指導者の他にも、現役の選手仲間やかつて毒指導者に師事した先輩、そしてその保護者達、協会などの組織の人々など、関連する人が多数いますよね。我が子が被害者となってしまったとき、あるいはそこまでいかずとも指導方法に違和感を感じたとき、異議を唱えたら最後、受ける圧がものすごい……。周りの方が世間一般からズレていたとしても、閉じた環境の中での少数派はツラい。レギュラーになれないなど、本質的な部分で子供が被害を受けるのもやるせない。

 また暴力はダメ絶対という風潮が広がり、家庭でも学校でもスポーツ界でも、露骨な暴力・暴言は減りました。でも、ただちに問題解決とはならず、陰湿・巧妙な方向に向かう点も胸のあたりが重い。人前ではなく車の中で中学生の息子(ゴルファー)を殴り、ゴルフ場に置き去りにした父親のエピソードには、涙がにじむ。

 それでも、もちろん子供向けのスポーツがすべて悪いわけではなく、救いを感じる記述もあります。スポーツ ガチ勢であっても、目の前の勝利や在籍中の小学校・中学校・高校での成績だけにこだわるのではなく、スポーツ選手としての将来や、さらには引退後の人生にも配慮する指導を行っているところも。

 なお、この本には登場人物(取材先)が多数登場し、膨大な取材・調査に裏付けされていることがうかがえます。実際、私が知らずにいた情報が各所にありました。

  • コロナ禍による行動制限中にこっそりと行う「闇練習」というものがある
  • 柔道の練習中の子供の死亡事故は日本でしか起きていない

など。

 私自身の経験をお話しますと、元夫は我が子の勉強面で教育虐待をしていました。音楽関係の教育虐待に関係する本『父の逸脱――ピアノレッスンという拷問』のレビューも公開しています。思うにつけ、スポーツであれ勉強であれ音楽であれ、ネタは違えどトップレベルを目指すには困難が付きまとうのは当然。でも、本質的な技能を伸ばすための練習・鍛錬・勉強のツラさではなく、指導する人のご機嫌を取らねばならないツラさは邪魔でしかない。逆に成長を阻害するわ!

 ウチの子が通っているスポーツチームはちょっと変なのか、と思案している方にお勧めです。普通が分かります。ぜひお手に取ってください。

スポーツ毒親――暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか

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 なお教育虐待関連の本・マンガの一覧も併せてご確認ください。

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まとめ

要約

子供向けスポーツの世界における、指導者・保護者と子供との不健全な関わりについて扱う。環境によってスポーツ毒親になってしまったケースと、元から毒親であるケースの双方を取り上げる。

指導者や子供スポーツ界の暗部にも切り込む。

評価(お役立ち度)

★★★★★ (知らない情報が盛りだくさんだった)

基本情報
  • タイトル:スポーツ毒親――暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか
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  • 著者:島沢 優子(スポーツライター)
  • 出版社:文藝春秋
  • 発行日:2022年5月10日
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 ある日、私は2人の子供を連れて、モラ夫から逃げて別居しました。私自身と子供を守るためです。

 私は年間100冊程度の本を読んでいます。好きなジャンルはファンタジーですが、多読しているのは実用書です。

 このサイトを訪れた方が、少しでも生活を改善したり、気持ちを前向きにしたりする情報を得られたら幸いです。

望木 幸恵

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