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離婚を前提にしない、モラハラ夫対策の本。心理的に苦しくなる対処法が多数掲載されているので、注意が必要。論理破綻も目に付く。
モラ夫をほめて、モラ夫に感謝し、モラ夫の良いところを探す。自分の心を癒すには、モラ夫を許す。
レビュー
モラハラ夫と同居継続することを前提としたモラハラ対策の本です。
この本の良いところは、タイトルのみです。マスコミで取り上げられるほど話題になった『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』と似ていますが、別の著者によるものです。
一読して、論理破綻や矛盾が目に付くと思います。以下は「モラ夫はほめて伸ばそう」というセクションからの引用です。連続した2文で正反対のことを言っています(太字は私が強調)。
過去と他人は変えられませんが、未来と自分は変えられます。
93ページ
だったら自分からどんどん行動して、モラ夫のことをほめて、自分好みに変えて育てていきましょう。
本全体の流れとしても、モラ夫への応対の仕方を取り上げた「第3章 手のひらで転がす魔法のテクニック」と、自分自身のケアを扱った「第4章 傷つかないためのセルフコントロール術」で、真逆のメッセージを送っています。
例をひとつ挙げます。本の構成とは入れ替えて、まず4章から引用します。
モラ夫を夫に持つ奥さまの多くは、モラ夫の気持ちをとにかく優先し、毎日モラ夫のご機嫌を気にして生活しています。
166ページ(第4章)
一見、これで家庭の平和が保たれているようですが、じつはあなた自身を傷つけ、大切にしていない状態なのです。こんな生活を続けると、いずれ心が壊れてしまいます。
しかし前段の第3章では、モラ夫の気持ちをとにかく優先し、モラ夫のご機嫌を気にする対処法を列挙しています。
- 悔しい気持ちは忘れてどんどんほめて、モラ夫をいい気にさせてください(94ページ)
- (野球のテレビ中継中に話しかけて「うるさい」と怒鳴られたら)「話しかけてくるまで待つ」ことが得策です。でもその間は無視するのではなく、お茶を出したりするなど、「あなたを気にかけていますオーラ」は出していてください。モラ夫は子どもだから、無視されていると不安になってしまうのです(102ページ)
- 悔しいけれど、あなたがモラ夫に歩み寄り、大人の対応をしてあげることでしか解決策は生まれないのです(121ページ)
モラハラ本一般の著者は、モラハラを専門分野に掲げている心理士・精神科医・カウンセラー・弁護士や、モラハラ被害者、あるいはその双方の属性を持つ方々です。一方でこの本の著者の肩書は「夫婦関係修復専門はあとふるアドバイザー」となっています。主眼が「モラハラ」ではなく「夫婦関係修復」に置かれているのかなと思いました。
この『モラ夫のトリセツ』に対する私の印象は「能天気」です。他のモラハラ本とは、だいぶ温度差を感じました。
『「攻撃」がなくなる本』との比較
モラ夫との共存を前提にしたモラハラ対策の本は他にもあります。大人気の『離れたくても離れられないあの人からの「攻撃」がなくなる本』(レビュー)と、記述を比較します。
タイトル | 「攻撃」がなくなる本 | モラ夫のトリセツ |
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サブタイトル | 離れたくても離れられないあの人 | モラハラ夫と幸せに暮らす、秘密のテクニック |
想定読者 | 離れられない事情があり、共存を余儀なくされている人 | 「モラ夫でも愛してる」(9ページ) |
基本的な姿勢 | ひとまず「愛」は脇に置いて、「平和」を作ろう(41ページ) | 自分を悲劇の主人公ではなく、ラブストーリーの主人公に(9ページ) |
モラ夫への態度 | 淡々とした態度を貫く(100ページ) | とにかく笑顔で対応(122ページ) |
著者の家族 | 典型的なモラルハラスメントの関係にある両親の元に生まれ、幼少期を過ごす(192ページ) | 私の最大の理解者である最愛の夫(198ページ) |
まとめ
モラ夫との同居を前提とした、モラハラ対策の本。
モラ夫をほめて、モラ夫に感謝し、モラ夫の良いところを探す。自分の心を癒すには、モラ夫を許す。
★☆☆☆☆ (役に立たないどころか、害がある)
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