★★★★★
25人の著者がそれぞれメッセージを送る。
内容は異なれど、読み手に誠実に向き合う姿勢は共通。こんなに悩みながらも真摯に書かれた本はありません。
レビュー
「14歳の世渡り術」シリーズの1冊。14歳と言えば、中学2年生から3年生にかけての年齢。ただでさえ悩み多き年頃ですよね。この本は「死にたい」「消えたい」「もう生きていたくない」などと思ったことがある子供たち、今まさに思っている子供たちに向けた本です。
25人の著者が25通りのメッセージを送っています。著者のバックグラウンドがさまざまなので、内容は多様。メッセージ同士が相反するとは言えないまでも、両立しないケースもあります。文体も違うし、なんなら文章ではなくマンガも。1件1件は10ページ前後の長さです。
以下は、そのメッセージのタイトルと著者の一覧です。一部には引用を添えました。なお、このサイトでは毒親・機能不全家族なんかを扱っていますが、関連する話題は21~23。「Q. 家族だから大切にしなくちゃダメ?」というセクションに含まれています。
1. 打ち明けられないあなたへ こだま(主婦) 「悩みを打ち明けよう、相談しよう」その言葉を聞くたびに、世界から取り残されたような気持ちになりました。それができない人はどうすればいいんだろう。 |
2. 死にたいあなたが楽になるために はるな 檸檬(漫画家) |
3. 自分の身体は、誰のもの? 磯野 真穂(文化人類学者) |
4. まともだからこそ「死にたい」と思う 末井 昭(作家) |
5. 逃げ道、つくります? オーダーメイドの逃げ方を考える 今井 出雲(ソーシャルワーカー) |
6.「死にたい」気持ちを研究する 向谷地 生良(ソーシャルワーカー) |
7. 愚痴は生き延びるための技術だ 松本 俊彦(精神科医) |
8.「未来なんてない」 KOHH(ラッパー/アーティスト) |
9. 深夜の犬みこし うかうか |
10.「つらいのは今だけだよ」なんて言わないけれど 春名 風花(女優・声優) |
11. 死にたくてもいい 水谷 緑(漫画家) |
12.「死にたい」人はすでに戦っている 村 明子・さくら まい(東京自殺防止センター電話相談員) |
13. 不安に襲われたら、身体の味方をしてみる 斎藤 環(精神科医) |
14. 不安とは他者である 小野 ほりでい(ライター) |
15.「いいね! 」から自分を守る「軸」 整形アイドル轟ちゃん(YouTuber) |
16. 「太っていて醜い私」という呪いから解き放たれて 藤井 美穂(女優・プラスサイズモデル) |
17. 「自分を好きになろう!」という暴力 水島 広子(精神科医) 「自分を好きになる」と「自分を肯定する」というのは、似たように聞こえるかもしれませんが、多くの場合に、実は正反対のものなのです。 |
18. 孤独から芽吹くことば 齋藤 陽道(写真家) |
19. 他人はほっとくくらいがちょうどいい やばいちゃん(漫画家) |
20. 心の傷がキレイな模様になるまで モモコグミカンパニー(楽器を持たないパンクバンドBiSH) |
21. 嫌なものは嫌 ハルオサン(漫画家) 「家族なら わかりあえる」 そんなことは 全然なかったよ キレイな言葉は 幸せと関係ない 大人になるほど 選択肢が増えて 心が楽になった |
22. 家族を嫌いでいてもいい 小林 エリコ(文筆家) 子供のうちは家族が嫌でも家から出ていくことができない。(略)私はあの時の生活を形容するならば「収容所」がぴったりくると思っている。 |
23. 我慢しなくていいんだよ 橘 ジュン(NPO法人BONDプロジェクト代表・ライター) 家族って大切だけど、自分がされたくないことは我慢しなくていいし、命を脅かされるほどツライことからは逃げてもいいし、自分のこと一番に考えていいんだよ。 |
24. 現実からは逃げていい pha(文筆家) 「逃げてもいいこと」からはもちろん逃げてもいいし、「できれば逃げないほうがいいこと」からも、たまには逃げていい。逃げると損をしたりもするけれど、人間にはそうしたいときもある。 |
25. 踏み出した〝 重み〟を足がかりに 岩崎 航(詩人) |
この本の位置づけは次のとおり(「はじめに」から抜粋)。
いますぐつらい気持ちを消し去ったり、困難な現実を動かしたりすることはできないかもしれませんが、誰かの経験や気持ち、それぞれの専門分野における知見を読むことで、ほんの少しでも心が楽になったり、何らかのヒントが見つかったらいいな、と思っています。
中には、以下のように書いている著者(磯野 真穂氏)もいます。
いったい誰がこの本を開くんだろう。死にたい、消えたいと思っている人が、わざわざ図書館に行って「死にたい、消えたい」と思っている人に向けられた本を読むことなんてあるんだろうか。
ただシニカルな所見を述べているわけではなく、次のように続きます。
10代の君がたまたまこの本を開き、たまたま私の文章に出会うかもしれないから。そんな未来に向かってこの文章を書いています。
この本は「読者を意識している本 ナンバーワン」です。25人の著者は「あなた」「君」「みんな」などと呼びかけたり、文章で読者に語りかけたりしています。メッセージはバラエティに富んでいますが、読者に真摯に向き合う姿勢は共通。全体的な印象として、限界を認めつつも、その中で読み手に伝えるために書き手も悩み、もがいています。
思春期の子供向けの本ですが、2児の母の私にも読みやすかった。
私には、モラハラ夫に悩んでいる時期がありました。特に別居直前は、最悪・最凶。読書好きを自認する私が、本を読むことを億劫と感じたり、もはや手に取ることすら忘れてしまった! 当時はこの本はありませんでしたが(2020年11月 発刊)、あの頃の私に渡したい。小難しくない、この本なら読めたと思う。
また母親としての立場で言うなら、もしも我が子が「死にたい」「消えたい」と言ってきたら、かなり動揺する。うまく反応できる気がしない。でも、この本を渡すことならできます。私は今までも子供に説明が難しいことは(離婚、性教育など)、本を差し出してなんとかやってきました。この本は私のネタ帳に追加されました。
ツラすぎる状況に置かれているすべての方におすすめいたします。
「14歳の世渡り術」シリーズ
表紙 | 本 |
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まとめ
25人の著者がそれぞれメッセージを送る。
★★★★★ (多数の著者がいることで、どれかは誰かに届きやすいと思う)
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