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100人の書き手が各々の毒親に向けて書いた手紙を収録。魂の叫び!
レビュー
本の構成・位置づけについて
この本には、100人の書き手が各々の毒親に向けて書いた手紙が収録されています。1通につき1~数ページの長さで、百人百様の内容です。
書き手の年齢・性別・職業も、手紙を書いた時点で置かれている状況も様々。手紙を送る相手も父親だったり、母親だったり、両親だったり。あるいは、まだ生きていたり、すでに死んでいたり、生死不明であったり。
Create Media社(フリーライターの今一生氏が編集者として活動するときの会社)が企画し、手紙を公募しました。
なお、この本(2017年発行)に先立ち、1997年に第一弾として『日本一醜い親への手紙』が発行されています。関連作品は次の通り(「はじめに」から引用)。
『日本一醜い親への手紙』は児童虐待の本では異例の十万部のヒット。『もう家には帰らない』、『子どもを愛せない親からの手紙』と三部作になり、文庫版やアンソロジー版を含めると累計三十万部のベストセラーに育てたため、その後の「毒親」関連本を出版しやすくする土壌を作りました。
また、割かれているページはそんなに多くないですが、編集者は「はじめに」や「おわりに」で子供の人権に無関心な社会への憤りや、子供への虐待を無くしたいという熱意を語っています。
法律上(児童虐待防止法第二条)、児童虐待は①心理的虐待②身体的虐待③性的虐待④ネグレクトの4つに分けて定義されていますが、編集者はその法律の不備にも怒りを表出。「経済的虐待」および「文化的虐待」を取り上げています。内容について「なるほど」と思ったので、ご参考までに以下に引用します。
この四つしか児童虐待として認めず、高齢者虐待にだけ経済的虐待を認めています。現実の子どもは自分がためたお小遣いを勝手に使われたり、不当な理由でアルバイトを許されなかったり、魂の奥底から望んでいる進学先を不当な理由でねじ曲げられるなどの経済的虐待を、親から受けています。
(略)
文化的虐待とは、親の教えと一般常識が著しくかけ離れているために、子どもがその間に宙吊りにされ、同世代の仲間から浮いてしまったり、いじめに遭うなどの孤立へ導く虐待のこと。僕が作った造語です。
親自身が精神病や発達障害などの困難を負っていても病院に行かなかったり、宗教に入れ上げて子どもに入信を迫ったり、過激な政治思想を日常的に吹き込んだり、ヤクザのような非合法の考えになじませたり、学歴・所得・職業・性・国籍などに偏見と差別意識を植え付けるなど、弱者である子どもに対して支配力をためらいなく発揮するところに、この虐待の恐ろしさがあります。
実際のところ、経済的虐待や文化的虐待に相当する内容を取り上げた手紙も、本の中で散見されました。
感想等
毒親本と言えば、心理士・精神科医・カウンセラーといった専門家が著した解説書が一般的。ライターが企画し、子供本人が執筆したこの本はだいぶ毛色が違った!
まず、手紙というフォーマットのおかげで、親に何よりも伝えたいことだけが濃密に絞り出されているように感じました。過去あるいは現在、自分をもっとも苦しめているものが何なのか、一般的な解説書の中のエピソードより100倍率直に語られています。口を閉ざしがちな性的虐待について、触れている手紙が数多いことに驚愕しました。
また1人の体験記ではなく、100人分の手紙という点で、多岐に渡った虐待が詳らかになっています。片方の親による虐待を、もう片方の親が見ないふりをしたり、黙認したり、はたまた後押しまでしたりするのは、本当に胸が塞がれる思いでした。
文筆業のプロの手による本は、読者に訴えかける力がものすごい! 人の子の親や、子供を支援する立場の方にぜひ手に取ってもらいたい。
まとめ
100人の書き手が各々の毒親に向けて書いた手紙を収録
★★★★★ (子供のなまなましい気持ちに触れられる)
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