★★★★★
母子家庭や毒母(こんな言葉は、本では使っていないが)が登場する短編集。
笑えます。ほっこりします。たまに切なくなります。
レビュー
この本には5つの短編が収められています(連作)。同じ小学校に通う、母子家庭で育つ女の子が3人登場。三者三様のバックグラウンドを本から引用します。
■ 田中花実
私が生まれた時、私のお父さんは既にいなかった。一応、死んだことになっているが、そのへんのところが、あやふやなのだ。その件に関して、お母さんは一切口を開かないので、わからない。言いたくないということは、私が聞いて後悔するような話なのだろう。
お母さんは工事現場で働いている。道路の舗装工事や、家の解体もしている。ほかに女の人はいない。かなりの重労働だからだろう。
ただでさえ安い激安堂なのに、お母さんは、ちょっと傷んでいるような果物や野菜を目ざとく見つけ、「これ、傷んでいるよ、ちょっと負けてよ」などと言い、社長も「これ、中はなんともないと思うんだけどなあ、しょうがないなあ」と言いながら値引きシールを貼ってくれている。ここらあたりの貧民層御用達の店なのだった。
■ 中野千早
クラスに、中野千早さんという、やはり母子家庭の子がいるが、一度その子の家に遊びに行った時、五年前に交通事故で亡くなったという中野さんのお父さんの気配が、そこここに色濃く残っていることに驚かされた。
中野さんのお父さんは、高校の国語の先生だったそうだ。今でも書斎はそのままで、仏壇には花や、山盛りの果物が供えられ、あちこちに父親の写真が飾られていた。
■ 早川優香(以下は、実の父親のセリフから引用)
おじさん、いろいろあって、優香ちゃんに直接会っちゃいけないことになってるんだ。離婚する時、優香ちゃんのお母さんとそういう約束をしたんだ。今は向こうも再婚してるしね、いろいろ複雑な事情があって。
最初の4編は花実ちゃんの視点で、最後の1編は同級生の男の子の視点で描かれています。
この男の子は、「血走った目がつり上がり、唇は憎々しげに歪んでいる」母親から、「お前は、私を、苦しめるため、絶望させるために生まれてきたの?」と面罵されます。
作者はなんと中学生(出版当時)! 語彙力・文章力なんかは当然ですが、いわゆる「普通」とは違った家庭の描き方に、子供離れしたものを感じました。

表面的だったり、画一化したりということはなく、いろんな家庭を描写していると思います。
アフターストーリーも発刊済みです。(『太陽はひとりぼっち』)。
表紙の絵や挿絵は、人気漫画家の西原 理恵子さんによるもの。
通常の文学としても楽しめますが、我が子のように親の離婚を経験しているお子様方に、特におすすめいたします。
まとめ
母子家庭の小学生の女の子や、毒母がいる家庭で育つ小学生の男の子の視点で、身の回りの生活を描く。
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- タイトル:さよなら、田中さん
- 著者:鈴木 るりか
- 装画:西原 理恵子
- 出版社:小学館
- 発行日:2017年10月17日
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