★★★★★
難関私立中学校への合格を目指して、家庭の中で行われた教育虐待を描いた物語。
フィクションだけれど、生々しさに胸が締め付けられる。
レビュー
本のあらすじ・位置づけ

母親の円佳の視点で、息子の翼の、中学受験までの軌跡を描く。小学二年生から六年生までの日々を追う。
主な登場人物は、以下の一家3人。
- 母親の円佳。当初は中学受験に関する知識を持ち合わせていなかった
- 一人息子の翼
- 父親の真治。かつて「中学受験に失敗した」
普通っぽい家族が、徐々に教育虐待の闇に飲み込まれていく過程をリアルに表現。登場人物の心情もつぶさに描かれる。
本の選定理由
私はバツイチのシングルマザーです。元夫から子供への教育虐待を断ち切りたい――これが別居・離婚に至った理由のひとつです。
この本の舞台は、(かつての)我が家と似ているので、大いに興味をそそられました。本の評判も上々。
でも、なかなかページを繰ることができず。だって、当時感じた絶望・閉塞感が呼び覚まされたら怖いですもん……。そして本のタイトルをすっかり頭から追いやっていました。
先日、図書館でたまたま背表紙を目にしたんです。しばらくぶりに蘇った印象的なタイトル。……今なら読めそう。読んでも、自分の体験・感情と切り離せそう。我が子がだいぶ成長して、当時の生々しさが薄らいできたからかな。そう思えたので、やっと本を開きました。
感想等
目に見えないものを言葉で紡ぐ、という本の得意技を存分に堪能しました。虐待って家庭の外からは見えにくく、家庭の中の当事者も訳が分からない、と言われていますよね。そういう題材を扱っているのに、複雑な心情や心の機微が見事に言語化されていました。
そして経験者としても、リアリティを感じました。進学塾や中学受験の制度、親が意図せず子供を追い詰めてしまうこと、子供は理不尽なことをされてもそれが不当だと気付かない点などなど。
以降、ネタバレを含みます。ネタバレの先までジャンプ。
同じ教育虐待でも、父母それぞれで別種の教育虐待が描かれていると感じました。母親の円佳は教育熱心が行き過ぎたもの、父親の真治の場合は世代間で虐待が連鎖した、根深く救いようがないもの。
「俺はあいつを見捨てるから」と真治が円佳にLINEでメッセージを送るシーンがあるのですが、もはや教育の前に育児を放棄する宣言ですよね。その他にも真治は翼をこきおろしたり、暴力を振るったり、自らの言動によって息子の心身両面を痛めつけます。うわー、元夫と同じだわ……。
一方で、不思議なことに悪気はさらっさら無いんですよね。元夫は、自分が悪者にされるのは我慢がならないようでした。当然、自分の間違いを認めることなんて皆無。
なので、1か所だけ、現実的じゃないと思った部分は、真治が改心するシーン。紆余曲折を経て、翼への対応方法を変えようという円佳の説得に、真治は「そうだな」と応じます。
ただ、あんまりにも悲劇的な結末だったら、読後感が悪すぎる。話の展開的には必要な真治の「改心」だったとは思います。
単なる物語として読むには、示唆するものが多かったです。現在、教育虐待について悩んでいる方、疑問に思っている方にご一読をお勧めします。
まとめ
難関私立中学校への合格を目指して、家庭の中で行われた教育虐待を描いた物語
★★★★★ (リアル)
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