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夫から妻へのDVの中でも肉体的な暴力を中心的に扱っている、珍しい本。
暴力を振るう男の特徴を明らかにし、対策を示す(「逃げる」以外も)。
レビュー
本の位置づけ・あらすじ
これは夫から妻へのDVの中でも肉体的な暴力を中心的に扱っている、珍しい本です。支援の専門家(カウンセラーなど)を対象とした書籍はありますが、当事者である女性向けの類書はあまり見かけません。
本の内容について、著者(精神科医)は「はじめに」で次のように述べています。
本書では私が面談した被害女性たちの証言を交えながら、心の暴力から体の暴力へと至る過程、支配の構造、暴力的な男たちの特徴などを探っていく。
おおまかな目次は以下のとおり。
- 訳者まえがき
- はじめに
- 序章
- 第1章 心を狙い打ちする虐待
- 第2章 暴力のサイクルとそのシナリオ
- 第3章 支配の実行
- 第4章 密室での暴行の実態
- 第5章 殺人
- 第6章 危ない男を見破る
- 第7章 なぜ逃げないの?
第8章 逃げたい、でもどうやって? - 第9章 周囲の者ができること
- 解説 ドメスティック・バイオレンスを解決するために
著者は『モラル・ハラスメント――人を傷つけずにはいられない』(レビュー)でおなじみの、フランスの女医マリー=フランス・イルゴイエンヌ氏。
『殴られる女たち』には『モラル・ハラスメント』の内容への言及がたびたび見られます。「最初に心が殴られる」として心理的暴力(モラハラ)も取り上げているのです。「心を襲う暴力と肉体を襲う暴力は密に結びついており、なんの理由もなく、突然、暴力を振るい始める男はいない」そうです。
また性的暴力についても「相手を支配するための手段」だとして解説があります。
感想と統計データ
身体的DVに焦点を合わせた本は、モラハラ本(心理的DVの本)に比べて驚くほど少ないです。世の中に数多くいる、肉体的DVを受けている女性たちに知識を授けるところに、この本の意義があると思います。
実態としては、夫から「身体的暴行」を受けた(と認識している)女性の数が、「心理的攻撃」を受けた(と認識している)女性の数を上回ります。内閣府 男女共同参画局の調査書『男女間における暴力に関する調査報告書(平成29年度調査)』(レビュー)から引用すると、夫からの被害経験があったと答えた女性の割合は、身体的暴行は19.8%、心理的攻撃は16.8%になっています。ちなみに、妻からの被害経験があったと答えた男性は、身体的暴行で14.5%、心理的攻撃で10.0%です。
■ 配偶者からの被害経験の有無(女性)

身体的暴行:なぐったり、けったり、物を投げつけたり、突き飛ばしたりするなどの身体に対する暴行
心理的攻撃:人格を否定するような暴言、交友関係や行き先、電話・メールなどを細かく監視したり、長期間無視するなどの精神的な嫌がらせ。自分または自分の家族に危害が加えられるのではと恐怖を感じるような脅迫
経済的圧迫:生活費を渡さない、貯金を勝手に使われる、外で働くことを妨害されるなど
性的強要:嫌がっているのに性的な行為を強要される、見たくないポルノ映像等を見せられる、避妊に協力しないなど
一方で、夫の愚痴を言うのは簡単でも、モラハラは口にしにくいし、暴行となるともっと憚られる、という心理はよく分かります。だって屈辱的じゃないですか。私の経験でも、本当は元夫が私に手を上げたことがあります。でも、この匿名サイトにも書きづらく、ヤツを「モラ夫」と称しています。
『殴られる女たち』の中でも、ある女性から著者へ送られた手紙について、著者は以下のように表現しています。
孤独を強いられ、ののしられ、策略に振り回され、あらゆる心理的暴力を受けていることは明確に記しているものの、肉体的暴力については、おまけのようにしか語っていない。
一般論として、DVは徐々にエスカレートしていく、ということが言われています。この本では具体的に、何がDV悪化のきっかけになるのか、最悪の事態へと進行していく兆候は何かを示しています。今、困っているけれど、すぐには誰にも相談できないような方にお勧めいたします。
まとめ
夫から妻へのDVの中でも肉体的な暴力を中心的に扱った本。暴力を振るう男の特徴を明らかにし、対策を示す。
★★★★★ (何が危険か分かる)
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