★★★★★
夫から妻へのDVや子供への虐待などについて実態や、被害者・加害者の心理、被害者支援・加害者向けプログラムの内容や限界・問題点を緻密に解説。
加害者について知りたい方、行政や民間の支援団体のサポートを受けたいと思っている方におすすめ。
レビュー
この本では、夫から妻へのDVや、子供への虐待、その他の家庭内の暴力について、タイトルから想像するよりもずっと幅広いトピックを扱っています。虐待やDVの実態といった一般的によく取り上げられる話題のほかに、国内外の支援の現状や関連する法令、虐待が描かれている映画の解説などにも及んでいます。
『加害者は変われるか?』というタイトルですが、その問いに対する答えはイエス・ノーでは記載されていません(ただし、本の内容をじっくり咀嚼すれば、自ずと見えてくる)。
著者は経験豊富なカウンセラーです。被虐待経験をもつ女性たちのグループ・カウンセリング、DV被害者のグループ・カウンセリング、DV加害者の教育プログラムなどに関わっています。本の中では被害者(子供を含む)の視点だけでなく加害者の視点からも物の見方が語られています。DV加害者向けプログラムを実施している最中のファシリテーター(司会)の心情など、他の本ではお目にかかれない内容もありました。
また、なかなか複雑で入り組んだ状況やら思考やらを緻密に表現しています。著者は「まえがき」で次のように述べています。
本書において、私はできるだけ割り切れなさ、境界の曖昧さにこだわろうと思った。加害・被害を悪と善とに分割するような、二極対立的な内容にはしたくなかった。加害者と被害者は紙一重の場合があるのだから。
この本では、初心者に向けて正確性を多少犠牲にして理解・納得のしやすさを取るとか、妻(母親)を一方的な被害者として優しく語りかける、といったような手心を加えていません。DV・虐待・家庭内暴力の被害者だけでなく、その支援者などの専門家も読者として想定しているためでしょう。

私が最初にこの本を手にしたのは、モラ夫と同居中のときで、そのときには難しい本だと思いました。画数の多い漢字を多用しているとか、小さい文字でいっぱい書いてあるとか表面的なこと以外にも、内容的にも腑に落ちない記述がありました。あるところで引っかかり、もう一度読んで反芻するも、よく分からず、というようなことを繰り返していました。
モラ夫と別れて落ち着いた今、再読してみると、非常に冷静で、洞察に富んでいると思いました。私は行政の各種の被害者支援を受けたのですが、そのときに感じたモヤモヤも表されていて、救われる思いがしました(以下の引用)。
刑法のゆるぎない基本精神は「法は家庭に入らず」である。マンションの扉の向こうで妻が血を流していようと、子どもが投げ飛ばされていようと、日本ではそれだけでは犯罪にならない。家庭は無法地帯である、と言い換えることもできる。
(略)一般的には、DV、虐待、老人虐待、家庭内暴力(子から親への暴力)などとそれぞれ別の名前で呼ばれ、所轄する官庁も異なっているのが現実である。
中でも児童虐待(厚生労働省)とDV(内閣府)の分断は、現場の援助者にとって大きな障害になっている。
この本は初心者向けではないと思います。加害者について知りたい方や、専門家の支援を仰ぐかどうか悩んでいるような方におすすめいたします。
まとめ
夫婦間のDV・子供への虐待などの実態や、被害者・加害者の心理、被害者支援・加害者向けプログラムの内容や限界・問題点を緻密に解説。
★★★★★ (加害者について知りたい方、行政や民間団体の支援を仰ぐか迷っている方におすすめ)
- タイトル:加害者は変われるか?――DVと虐待をみつめながら [Amazon
] [楽天] [レビュー]
- 著者:信田 さよ子(臨床心理士、原宿カウンセリングセンター 所長)
- 出版社:筑摩書房
- 発行日:2008年3月25日(単行本初版)
コメント