本『DV・虐待にさらされた子どものトラウマを癒す――お母さんと支援者のためのガイド』のレビュー

おすすめポイント

★★★★★ 類書なし

父親から不適切な扱いを受けた子供をケアするための本。対象読者は母親

モラ家庭・DV家庭において、子供を健全に育てるために必要な手立てが分かる。

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レビュー

 家庭で父親から不適切な扱いを受けた子供をケアするための本は、カウンセラーなど専門家向けのものはあります。また成長した子供に向けて、自分で対処するための毒親本も多数出版されています。ただ、母親をメインの対象読者にしたものは、寡聞にして他に知りません。

 タイトルに「DV」「虐待」「トラウマ」と強い言葉が入っていて、(たとえば報道されるような)過酷な体験をした子供を対象にしているかのような印象がありますが、実際にはありとあらゆるパターンを扱っています。ひどさ加減が軽いと言うつもりはありませんが、たとえば父子関係はうまくいっている(ように見える)が、父親から母親へのモラハラがある家庭の子供も対象に含まれます。

 著者は米国でDV加害者専門カウンセラー、監護権評定者、子ども虐待調査官などを歴任したランディ・バンクロフト氏です。文中の「私のクライアント」という言葉は、たいていDVの加害男性を指しています。

私

10年以上前の2006年に発行された古めの本ですが、内容は現在に通じます。行政相談や調停・裁判などの制度は変わっても、家庭内の問題そのものが大幅に変化することはないと思います。

母親向けの本が長いこと見つからず、毒親本などで我が子をケアする方法を探っていました。この本を読んで、親が対処できる手玉のほうが子供よりもずっと多いし、成長を待たなくていいので早いと思いました。

 内容を紹介する代わりに、目次を掲載します。

  • 日本の読者の皆さんへ
  • 謝辞
  • はじめに
    • 第1章 子どもたちはパートナーの暴力を見聞きしている
  • 第1部 虐待する男性とその子ども
    • 第2章 虐待心性(虐待をする心理状態)と子ども
    • 第3章 虐待する男性が父親となったとき
    • 第4章 子どもの内的世界を理解する
    • 第5章 子どもの境界線を守る
  • 第2部 虐待する男性と家庭のダイナミクス
    • 第6章 アボット家の週末
    • 第7章 母親としての役割を守る
    • 第8章 家族の健全なダイナミクスを維持する
    • 第9章 去るべきか、去らざるべきか
    • 第10章 児童保護機関と折りあう
  • 第3部 虐待する父親と子ども―別居後―
    • 第11章 子どもにとっての両親の別居や離婚の意味
    • 第12章 別居後の虐待する父親
    • 第13章 家庭裁判所の制度の中で解決策を見出す
  • 第4部 明日に向かう子どもたち
    • 第14章 子どもの治癒を促す
    • 第15章 子どものエンパワメント
    • 第16章 虐待の悪循環を断つ
  • 参考資料と関連情報
  • 虐待されたお母さんの個人的な話を聞かせてください
  • 日本国内の配偶者暴力支援センターの機能を果たす施設リスト
  • 監訳者あとがき

 なお、目次で「別居」「離婚」という文字が確認できますが、この本は別居・離婚をすべての人に推奨しているわけではありません。引き続きDV夫といっしょに暮らす場合でも、子供のケアという観点でできることが多数掲載されています。

 途中途中で、母親の疑問に対して答えるという形式でQ&Aが掲載されています。私が感じていた疑問もたくさんありました。その中から5つ引用します。

Q4 うちの子どもは、パートナーの虐待に影響を受けていないように見えます。影響されているのでしょうか。

Q5 彼はなぜ子どもたちの中で、特定の子だけをえこひいきするのでしょうか?

Q7 虐待について、子どもにどの程度話すべきでしょうか?

Q10 子どものために彼の元を去ったほうがよいのでしょうか?

Q18 子どもが父親に操られないようにするにはどうすればいいですか?

 父親による凄惨な児童虐待事件が報道されると、「母親は何していたんだ」というような非難するコメントが見られます。しかしこの本は母親を支援・応援する立場です。読むのがつらいパートもありますが、自分には子供を癒す力があることを教えてくれます。その力を今までも使っていたと認められるし、より効果的・具体的な方法を知ることができます。

 私の実用書のイメージは、ドラえもんの道具なんです。ドラえもんがのび太君を助けるためにポケットから道具を取り出す代わりに、実用書から私を助けてくれる考えや方法が出てくるんです。この本は、私のそのイメージにぴったり当てはまるものでした。


【追記】

 このサイトでよく読まれている記事です。

 2006年の出版から年月が経過しており、取り扱っている書店が少ないです。現在のところ、ロングテール戦略のAmazonであれば入手できます。

(2020年9月3日)


【追記】

 入手できない、というご連絡を頂きました(ありがとうございます)。以下の記事で、代わりとなる本をご紹介していますので、よろしかったらご確認ください。

(2020年11月12日)


【追記】

 ランディ・バンクロフト氏の著作の一覧です。一部、共著の本もあります。

(2021年1月5日)

表紙タイトル
DVにさらされる子どもたち――加害者としての親が家族機能に及ぼす影響

2017年発行。弁護士、調停委員、カウンセラーなど離婚調停や被害者支援の専門家向け。共著

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別れる?それともやり直す?カップル関係に悩む女性のためのガイド――うまくいかない関係に潜む"支配の罠"を見抜く

2016年発行。未婚の女性向け

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DV・虐待加害者の実体を知る――あなた自身の人生を取り戻すためのガイド

2008年発行。女性一般向け

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DV・虐待にさらされた子どものトラウマを癒す――お母さんと支援者のためのガイド

2006年発行。子供がいる女性向け

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まとめ

要約

父親から不適切な扱いを受けた子供をケアするための本。対象読者は母親。父親や子供の心理の分析や、DV家庭ではたらく力学についての解説の後、母親が取れる対処方法が述べられている。

評価(お役立ち度)

★★★★★ (こんな本をずっと探していた。我が家で子供を健全に育てるために必要な手立てが分かった)

基本情報
  • タイトル:DV・虐待にさらされた子どものトラウマを癒す――お母さんと支援者のためのガイド  [Amazon] [レビュー]
  • 著者:ランディ・バンクロフト(米国)
  • 訳者:白川 美也子、山崎 知克、阿部 尚美、白倉 三紀子
  • 出版社:明石書店
  • 発行日:2006年12月25日

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プロフィール

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 ある日、私は2人の子供を連れて、モラ夫から逃げて別居しました。私自身と子供を守るためです。

 私は年間100冊程度の本を読んでいます。好きなジャンルはファンタジーですが、多読しているのは実用書です。

 このサイトを訪れた方が、少しでも生活を改善したり、気持ちを前向きにしたりする情報を得られたら幸いです。

望木 幸恵

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