★★★★★
著者(男性)は、日本における脱DVの取り組みを行う臨床家の草分け
レビュー
タイトルから分かるとおり、この本はDV(ドメスティック・バイオレンス)について扱っています。このカテゴリーの本として珍しいのは、男性の著者が(主に)男性の加害者に向けて執筆している点。
著者の草柳 和之氏について、別の本『夫が怖くてたまらない』(レビュー)から記述を引用します。文中の「この分野」というのは、日本における脱DVの取り組みを行う分野です。
この分野の草分けといえるのは、1997年から加害男性向けの専門カウンセリングをはじめた臨床家の草柳和之氏(メンタルサービスセンター代表)だろう。
『夫が怖くてたまらない』214ページ
「ドメスティック・バイオレンス」は男性問題、男性自身が問題に立ち向かわなければ、根絶しない」との認識で、男性の暴力克服の支援と、社会に向けた啓発活動を行っている。
問題意識は以前から持っていたが、直接のきっかけとなったのは、「妻を殴ってしまうことで悩んでいる」という中年男性からの問い合わせの電話。
本の目次は次のとおり。
- はじめに
- ドメスティック・バイオレンスとは何か
- 加害男性のプログラムと方法論
- 加害者更生の必要性と困難
- 加害男性のDV克服プロセスにまつわる諸問題
- DV克服の枠組み
- おわりに
前掲の『夫が怖くてたまらない』からの引用の最後にあるように、被害者ではなく加害者の側からアプローチを進めています。また、本の中には、加害者へ語りかけるような記述も。著者が男性ということもあって、「どこかで自分の問題性も感じて」いるような男性には、読みにくいDV本の中でも読みやすい仕上がりになっているのではないかと思います。
またブックレット、つまり小冊子であることも、読むハードルを下げてくれるはず。この本は、1000冊を突破した「岩波ブックレット」シリーズの中の1冊です(No. 6299)。
とはいえ巷のレビューで、男性ばっかりが加害者扱いされる、というクレームも見かけますが……。まあ、そうですよね……。でも、加害側にとって、この本が一番マイルドだと思います。
DV被害を受けている女性が読むと(私もかつてそうでした)、DV加害者やその更生プログラムについての情報が得られます。
私はDV加害者向けのプログラムには、2種類あると思っています。ひとつは加害者・支援者双方の苦悩や困難を伴いながらも、本質的にDVからの脱却を目指すもの。この本で取り上げているものは、こちらに属します。
もうひとつは、顧客である加害者の満足度を高めるためのサービス。離婚調停などでアリバイ的に提出するための「プログラム受講証」を発行するところもあれば、顧客の話を全肯定で聞いてくれるところなんかもある模様。
夫・元夫・パートナーなんかに、加害者向けのカウンセリングやプログラムを受けてほしいと思っている方には、特におすすめいたします。適切なサービスを見極める役に立ちます。
ぜひご一読ください。
まとめ
男性のDV加害者が暴力を克服するという観点から、ドメスティック・バイオレンスについて論じる
★★★★★ (加害者向けのカウンセリングやプログラムについてよく分かった)
- タイトル:ドメスティック・バイオレンス 新版――男性加害者の暴力克服の試み
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- 著者:草柳 和之
メンタルサービスセンター - 出版社:岩波書店
- 発行日:2004年7月6日
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