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父親から教育虐待を受けたフランスの女性による体験談。虐待を受けた子供の考え方や心の動きが具体的に分かる。
司法による支援の問題点も語っている。フランスの児童保護法案の成立に影響を与えた。
レビュー
本の位置づけ・あらすじ
父親から教育虐待を受けた仏人女性が、被害と脱出の体験を綴った本です。
以降ネタバレがあります。
ピアノ教師が行うレッスンとレッスンの間を埋める形で、主人公のセリーヌは毎日自宅でピアノ練習をします。このとき、父親が「復習教師」の役割を担います。2歳半で始めたときの練習時間は1日30分でしたが、すぐに1時間に延長され、4歳で4時間、10歳で7時間になります。それだけの時間を確保し、しかも父親が気に入るように練習するために、セリーヌは多大な犠牲を払わされます。
しかし当然ながら父親の過大すぎる要求に応えることはできず、セリーヌは寝食を欠き、精神的・肉体的に傷つけられます。また父親による性的に不適切な関わりも明かされます。一方でセリーヌは国際的なコンクールで入賞するなど成功を収めていき、それが父親の逸脱に拍車をかけました。
ところで、この本はかわいそうな被害者談では終わりません。後半では、聡明なセリーヌが自分一人で家を出た以降のことが描かれています。その中で、フランスの被虐待児への支援の不備が示されます。
それもあってか、この本はフランスで社会的な反響を呼びます。著者はその後、児童虐待を防止し、児童を保護する活動を続けています。
なお、この本にはセリーヌを取り巻く多数の人物――父親、母親、妹、ピアノ教師(父親の転勤に伴ってさまざまな教師が選ばれた)、学校の教職員、隣人、司法関係者、支援者など――が登場します。それぞれの立場に照らして考える材料が得られますので、心配ごとや不安がある関係者には、ご一読されることをおすすめいたします。
感想

ネタはピアノではありませんでしたが、我が家でモラ夫(別居・離婚済み)が長女に行っていたのも教育虐待だったと思います。
元夫とセリーヌの父親の言い分・理屈がそっくりで、陰鬱な気持ちになりました。
著者は「わたしは母の文才が羨ましかった」と本作中で述べていますが、その才能を受け継いだようです。情景が目に浮かび、セリーヌの感情が手に取るように分かりました。私は何度も泣きながら読みました。
別居前のあれやこれやについて、我が娘は、言語能力の面だけでなく心理的な面からも、母親の私に語っていないことがあると思います。そんな娘の気持ちを推し量る上で、私には貴重な資料でした。たとえば娘は私に明確なSOSを出したことはありません。セリーヌも母親、隣人、学校の先生などに救ってくれるかもしれないと期待を抱きつつも、結局は切り出せないままでした。
同じような立場の方で、子供の気持ちを推し量りたい方にお勧めいたします。
なお、以下の記事に、教育虐待の本の一覧を掲載しています。ぜひご確認ください。
まとめ
父親から教育虐待を受けた仏人女性による、被害と脱出の記録。フランスの児童保護制度の問題も綴られる。
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